少女亜鐘の短編





亜鐘(アカネ)♀  想定高校一年生。
          特に目立たない普通の女の子。
          学力も運動能力も差して目立つ所は無く。
          並の公立高校に、普通に進学した。
          優しい両親に恵まれ、幸せそうに過ごしている。
          ミスターに遭遇して、大声を出して逃げようとも考えたが。
          少し面白そうなので、付き合ってやる事にした。


ミスター ♂    年齢不詳、テンション高めのいいおっさん。
          一歩間違えば不審者ともとれる。
          公園のベンチで、ぽつんと一人で座り。
          空を眺めながら考え事をしていた亜鐘の隣に座る。
          「自分は、ミスターだ」と意味のわからない自己紹介をし、
          強引に亜鐘の考え事を話させる所から台本スタート。

配役表(1:1)



01亜鐘   「ミスター。私は、一体何をするべきなんでしょうか?」

02亜鐘M   私は、亜鐘。普通の女の子。
        集団に所属しては、目立った役職に着く事もなく。
        とはいえ、さして孤立する事も無かった。

        私は、普通の女の子。
        幸せそうに過ごす、女の子。

        違う、幸せなんかじゃない。
        物足りないの。
        何かが欠けてる感じ。
        私は、何かをしなきゃいけないはずなのに。
        何もせずにボーっと突っ立ってるんだ。

        さして何もしないで、過ぎ去っていった日曜日の感覚。

03亜鐘   「私の満足は、何処にあるのでしょうか?」

04亜鐘M   いつも集団の中心になっている、彼はどうなのだろう?
        集団を引っ張ってゆく、彼女はどうなのだろう?
        彼は、彼女は、私と違って満たされているのかな?

        見れるものなら。

        彼を、彼女を引き裂いて。
        満たされているのか、確かめてみたい。

05亜鐘   「だけど、亜鐘は知っています。
        そんな行為で、確かめられるものなんかじゃないと」

06亜鐘M   『とりあえず何でもいいから、手を出してみろ』だの。
        『恋や愛が、貴方を変えます』だの。
        呆れた文字が並ぶばかり。

07亜鐘   「私は幸せか?
        いいえ、私は幸せじゃありません」

08亜鐘M   だって私は満たされない。
        いつだって欠損している。
        意味を生み出さないままに、そこに存在しているだけ。

09亜鐘   「私は不幸か?
        いいえ、私は不幸じゃありません」

10亜鐘M   食べたいと思えば、食べ物を手に入れる事が出来る。
        眠たいと思えば、快適な環境で寝ることも出来る。
        両親だって、健在だ。
        性欲だって、やろうと思えば満たすことが出来るだろう。
        だから、私は不幸じゃない。

11亜鐘   「不幸じゃない」

12亜鐘M   不幸じゃあない。

13亜鐘   「じゃあ、私は何なの?」

14亜鐘M   幸せでもなくて、不幸でもない。
        不幸でもなくて、幸せでもない。
        何でもない?

15亜鐘   「いいえ、私は普通の女の子。
        私は、普通です」

16亜鐘M   幸せでも、不幸でもなく、普通なんだ。

17亜鐘   「不幸が怖くて、幸せがうらやましい。
        そんな、普通の女の子」

18亜鐘   「だから、ミスター。私は、一体何をするべきなんでしょうか?」

19ミスター 「いいよ、君はそのままでいいさ。
        十分立派だよ」

20亜鐘   「そんな訳無い。
        私は……亜鐘は。
        この程度じゃないのに!」

21ミスター 「君は、不幸と言う言葉に逃げてない。
        不幸に嫌悪感を抱いて、自分をそのポジジョンに置きたくない。
        というだけなのかも知れないが、そこは誤差の範囲だよ」

22亜鐘   「でも、彼も彼女も。
        私より頑張ってる、私より輝いてる。
        こんなにドン臭く、ノロノロしてるのは、私だけだ!」

23ミスター 「自分を計る時に、他人を定規にするのは良くないよ。
        それは、他人を計る時使う手法だよ。
        自分を計る時に使う定規は、自分じゃなきゃならない」

24ミスター 「そう、比べるんだよ。
        過去の自分と、今の自分をね。
        他の誰でもない、自分の事だ。
        よーく分析が効くだろう?」

25ミスター 「私ぐらいの歳になるとね、フフッ。
        悲しいけど、過去の自分のほうが性能が良い時がチラホラとあるんだ。
        そのときは、自分への戒めにするんだけどね。
        でも、君は違うんじゃないかな?」

26ミスター 「君は、過去の君に劣っているのかな?」

27ミスター 「本当に、まるっきり進歩してないのかな?」

28ミスター 「悪くないと思うよ。
        幸せだろうが、不幸だろうが、普通だろうが。
        そこに進歩があるのなら、ね」

29亜鐘   「ミスター。貴方は、私にこのままでいろと言うの?
        この満たされない日常のなかで。
        生きて、死ねと言うの?」

30ミスター 「そう言ったんだよ、お嬢さん。
        ……いいや、少し違ったかな?
        手助けをしてあげたつもりなんだけどね。
        捕らえ方って言うのかな?
        壁を一つ突き破るだけでね、変わってしまうものさ」

31ミスター 「不幸だ何だ自分はダメだと言って、その場に塞ぎ込んでいたら無理だが。
        大きな出来事があったり、ただ思い悩んでいるだけでもいいのさ。
        すっと、壁が壊れて世界が広がる事がある」

32ミスター 「私はね、思うんだよ。
        壁を壊せば壊すほど。
        世界が広がれば広がるほど。
        その人間の良さが上がっていくんだって」

33亜鐘   「人間の、良さ?」

34ミスター 「例えば、君が良く例に挙げる彼や彼女。
        そいつらが、必ずしも良いかって効かれれば、答えはノーだ。
        生まれ持ってたり、偶然拾った権力を振り回してるだけさ。
        ただ、経験の量が増える分、見識を広めるチャンスが多いけどね」

35亜鐘   「ミスター?」

36ミスター 「ん?
        なんだい、亜鐘君」

37亜鐘   「ミスターと、私の見ている物が違う。
        私の答えて欲しい所を、すっと避けて済ましてしまう、そんな気がして……。
        何だか、ずるい気がします」

38ミスター 「ああ、何だ。
        バレいてたんだね」

39亜鐘   「ええ、普通にわかりますよ。
        コレぐらいは」

40ミスター 「普通も侮れない、じゃないか。
        さっきあった激情も、苦悩も、普通に持っているんだろう?
        捨てたもんじゃないさ、普通って言うのも」

41亜鐘   「調子に乗ったミスターを、困らせてやろうって思う。
        そんな遊び心もあります」

42ミスター 「こらこら、ミスターをあまりからかうモノじゃないぞ」

43亜鐘   「ミスター。
        質問があります」

44ミスター 「何かな?」

45亜鐘   「ミスターは、普通ですか?」

46ミスター 「私は、特別だよ」

47亜鐘   「特別ですか。
        特別さんに聞きたい事があったんですよ。
        こんな質問、彼彼女には聞けませんから。
        ここは普通代表として、積年の疑問を晴らそうかと」

48ミスター 「おおっと、大きく出てきたねぇ。
        さて、どんな質問かな?」




49亜鐘   「特別って疲れません?」




50ミスター 「……実は君、相当普通って立場が好きだろう?」

51亜鐘   「ええ、とっても」



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アトガキ


テーマは、「苦悩」で書き出しました。
悩んで、苦しんで、辛い感じ。
実際の場合は、こんなに綺麗に言葉になるような、
思考が行われてる訳じゃないんだろうケド。
そして、追加でミスターが入ってきました。
彼が入ってきた事によってテーマに「達観」が追加されます。


正直、まだまだ甘い。
苦悩だけで、苦しみの状態だけで最後まで書き切るつもりだったのに。
そして、前半の苦悩も、後半の亜鐘のシニカルな態度で緩和されています。

と、いうより。
前半の苦悩のシーンは、亜鐘が「悩むんならこんな風なんだろうなぁ」と、
想像しただけのモノに成り下がっている。
こういう予定では無かったのですが・・・・・・。

本人、本物の苦悩とやらに正面からぶち当たったことが無いから
こういう形に落ち着いてしまったんじゃないかなと、自己分析。
ハナっから、こういうの向いて無かったのかも。

悲劇作家は、一体どうやって作品を書き上げてるんだろう……?

駄作ですが、精一杯書いたので。
演じていただけると、亜鐘ちゃんもミスターさんも喜ぶんじゃないかな?



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